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ラストリゾート ~ 終末営業

2016.11.23(Wed) | EDIT

(こちらはToby Fox氏制作のPCゲーム『Undertale』の二次創作小説です。本編Gルートのネタバレを含みます。ご注意ください)



 なんで、まだこんなところにいるんだろう。
 この世の娯楽を詰め込んだ玩具箱、MTTリゾートにかつての喧騒は見る影もない。まるで墓場のごとく、辺り一帯静まり返っている。客はもう滅多に来ない。従業員すら来ない。そういうわけでこのレストランも無人――のはすだった。
 おっかなびっくりやってきた青年は唯一出勤している従業員だった。もっとも彼の持ち場はしみったれたバーガーショップでこんな洒落たところではない。ここで働いていても客として来る縁もない。彼には全く初めてのことだ。受付に顔見知りがいないと多少気が楽だ、そう思いながら通り過ぎる。
 がら空きの席には座り放題。誰も見ていないテレビからは同じ番組が絶えず流れている。「残っている住民は、直ちに避難してください」という味気ないニュース。客足が途絶えるわけだ。隣接するホットランドではそうとして、遠方のスノーディンやウォーターフォールにはそもそも「住民が残っていない」とか、そういう噂ばかり絶えない。ようするに、非常事態。なのに、なんでこんなところに――

「よお。呼び出されて気分良くないか? そいつは良くないな、楽しもうぜ」

 ふんぞり返っている先客に声を掛けられ、青年はひきつった笑いを浮かべた。相手もニヒルにえくぼを作っているが、にこやかな眼をしておらず、不気味だ。なにせスケルトンなのだから。
 骨兄弟の片割れサンズといえば、ここでは愉快な芸人として名を知られている。あくまで表向きは。
 つい先刻、そいつはバーガーショップにやってきて、重要な話があるから来いと店員を買ったのである。有無を言わせぬ金額で。上客には逆らえない。何よりも恐ろしい奴には逆らえない。そう店の規則にも青年の人生哲学にも書いてあるからして、借りてきた猫は大人しく相席した。

「とりあえず、お前さんも食ったらどうだ? 普段なら300Gで売るところだが特別に奢りだ、好きなだけ食えばいい……ええと、バーガーパンツ、だっけな」

 そう言ってサンズはズボンから溢れんばかりのハンバーガーを取り出して、机にずらっと並べた。軽く二十個はある。青年は思わず顔をしかめる。どう見ても、自分の店の在庫ではないか。

「おっと安心しな。代金は既に払ってあるだろ?」

 そんなことは、たいした問題ではない。

「あんた、たいした手品とジョークだな。全く笑えない」

 彼が「バーガーパンツ」と不名誉にあだ名されるようになったのは、可愛い女の子にいいところを見せようと店から商品をくすねて持ってきたところ、そのバーガーの重みでズボンがずり落ちるところを見せてしまったという、あまりにも情けない伝説に由来する。そんな逸話を当人を前に再演してみせたことが、何よりも気分を損なわせた。トラウマを刺激されて汗が噴き出す。震えを隠すように皮肉めいた拍手をしても、不協和音を響かせる。
 対してコメディアンは悪びれもせず、グラムバーガーの包装を一つ剥いた。それからパンズも一旦剥がして、自前のケチャップを垂れ流してから載せ直す。その際赤い液がはみ出る程の量を。これではトマトの味しかしないだろう。けれどもこれこそが正しいハンバーガーだと言わんばかりに頬張る。
 何から何までコケにされているみたいだ。流石に腹が立つ――仄かな反抗心を秘め、バーガーパンツも自前のバーガーに口を付けた。差し出されたケチャップを受け取らず、素のままのパンと肉で腹を満たす。改めて、さして美味しい物ではないなと感想を抱いた。それでもMTTリゾートでは人気商品で飛ぶように売れる。売れるからには美味いのだろうと今まで錯覚していたが。
 いつの間にか、サンズはバーガーではなくホットドッグを握っている。今度は自身の売り物らしい。それをバーガーショップでも並べないか? と勧誘してきた。

「特注のメタトン顔型ステーキが売れちまってるの、見たぜ。陳列棚がぽっかり空いて寂しいんじゃないか? ホットドッグだってパンに肉を挟んだ、いわばお仲間だな」
「話があるって商売の話っすか……? すまないがそういうのはメタトンにしてくれないと……」

 バーガーパンツは強引な押売りをかわして上司に押し付けようとする。だがサンズも引かず、「いや、お前さんにする話だ」と譲らない。ところが「まぁむしろ売らなくていいんだが」などとちゃぶ台を返す。
 呆気にとられる相手を畳みかけるように、続けて本題を切り出した。

「……お前さん、なんで人間相手に物を売るんだ? いいか、なんで皆を殺し回る人間相手に、回復アイテムを売って助けてやるんだ?」

 スケルトンの、ぽっかりと空いた眼孔の奥が、鋭く光った。

「まさか、知らないとは言わせないぜ」

 テレビ番組が、避難勧告から磁気嵐に移り変わった。
 窓の外、塵が舞う。
 彼らモンスターは死んだら塵になる。この地下世界はもう、塵塗れだ。
 たった一人、地上から人間が落ちてきたせいで。それがMTTリゾートが寂れた理由だった。従業員は来ない。客も来ない。その人間以外の客は。
 バーガーパンツは殺戮者相手にも作る営業スマイルを、取り繕った。

「しっ、知ったこっちゃないね。オレはただのハンバーガー屋の店員だからな。しょうもない仕事だが、客に商品売らなきゃ、クビになる。毎日毎日メタトンがそう歌って脅すんだ」
「毎日か? 最近メタトンを見たか?」

 普段なら四六時中、MTTリゾートのオーナーにしてスーパースターの四角い箱がテレビに映っているところだ。しかし今その姿は、壁に貼られたポスターの中にしかいない。バーガーパンツは嫌な予感を抱きながら、壁をチラッと見やった。それが剥がれかけているのを確認するのみ。
 それもそのはず、かの上司ロボットが戦闘形態に姿を超え、ホテルの先のCOREに飛んで行ったのは昨晩のこと。昨日の今日ではまだ帰っていなくてもおかしくはない、部下ならそう思う。

「メタトンは死んだ。だからもう、お前さんしかいない」

 指差された青年は二つ目のバーガーを掴み損ね、床に転げ落とした。慌ただしく拾うも上手く包装を解けないでいる。

「そいつはうまくない、うまくない冗談だ。芸のキレが落ちてるんじゃないか?」
「メタトンは人間に壊……殺された」
「へぇ、あいつ自分のこと殺人マシーンだとか言ってたのに、逆にやられるとか、オレのこと駄目な子だって責める癖にあいつの方が駄目な子だったか、そりゃあいい」
「本気で言ってるのか?」

 亡き上司に代わって問い詰める相手から、顔を背けるバーガーパンツ。

「そうか、つまりそのなんだ、もう働かなくてもいいってことか」

 サンズの視線は、真っ直ぐ変わらない。

「あのチビッ子にも飯を作ってやらなくてすむ、だろ? まさか、そういう意味じゃない、よな? オレしかいないって。オレにメタトンの代わりに働け、じゃないよな? いや、あんたの代わりに、か?」

 そりゃ無理だろうと弱気な青年は首を振る。

「おいおい、オレに肉を焼いてパンに挟む以外の何が出来るんだ? そりゃ……本当は役者になりたかったけど……人生諦めが肝心とも言うしな」

 相手には理解してもらえないだろうな、とため息交じりに、最早遠慮も諦めて煙草を吸い始めた。彼の基準では目の前の骸骨は成功者に分類される。俺とは違う、イケてる奴だと。
 しかし、その人気芸人は今、落伍者を鏡映しに、顔を背けた。
 なんで、まだこんなところにいるのだろう。
 弟の純粋さが、王国騎士団のヒーローの不屈さが、エンターテイナーのロボの面白さが、人間を止めてくれるだろう。自分はそれを見守る役だ。だから自分は何もしなくてもいいじゃないか。そうして逃げ続けて、彼らを見殺しにしたんじゃないのか。サンズの背中を罪の意識が這いずり回る。
 この期に及んで、まだ誰かがあの人間を止めてくれると期待しているのか? 自分には何もできないと諦めて。諦めて、それで終わりか?

「いや……お前さんは早く避難するといい。アルフィス博士の指示に従ってな」
「あんたと一緒に?」

 サンズは首を振る。己の弱さを、躊躇いを振り切るように、強く。

「いいや。すまんな、僕には行かなきゃいけないとこがある」

 バーガーパンツが瞬きする間に、小柄な骸骨の姿は消え失せた。最早食べ物にもかけずに飲み干した、空のケチャップ容器だけが椅子に残される。

「これ、オレ一人で片づけるんですかね……」

 机の上の、手つかずのバーガーの山もそのままだ。なんでこんな客にばかり遭うんだと溢しながら、彼は二本目の煙草を取り出した。



 いまだ、MTTリゾートのバーガーショップは営業中だった。
 もうボスに怒られることもない。今ならずっとやってみたかった、ホテルの特等室のベッドに寝転がることもできるんじゃないか。そう邪な野望を秘め、不良従業員は部屋の鍵を漁るなどしてみたが、途中でやめて結局持ち場に戻ってきた。
 もうメタトンがやってこない。本当か? 今にも四角い箱型の上司が現れそうな気がして、恐ろしくなったのである。それはもう、理屈じゃない。体に沁みついている。

「そうさ、これが当たり前の過ごし方ってもんだろ」

 やはり客はサッパリ来ないが、まるで誰かに愚痴るように、独り言を吐く。そういう習慣もすっかり付いてしまった。暇潰しのクロスワードを解きながら、バーガーパンツはふてぶてしく接客を続けている。先程のサンズのように客が来ないとも限らない、と自分に言い聞かせて。
 避難したところで、ろくでもない一生なのには変わりない。だから、諦めた。

「休暇も使い切っちまったしな。どこにも行けねぇんだよ、なぁ」

 その時だ。ドン、と鈍い音がした。
 店の前を蹴る音。ダラダラしていないで出てこい店員、という音。
 まさか本当に客が来るとは! 実際そうなると小心者は冷や汗をタラタラ流しつつ、カウンターから乗り出して見下ろす。ああ、いつものアイツだ。

「来たよ。相変わらず間抜け面をしているね、バガパン君」
「なんだ、チビッ子か。何の用だよ」
「なんだとはなんだ、ここはショップでアイテムを買いに来るところに決まっているじゃないか、客に対して随分失礼なNPCだよね。まぁ今更か。そう今更、ここに来る必要はないんだけどね」

 おどおどとした青年の背丈の半分くらいしかない、人間の子供は堂々として見上げていた。昨今の常連客だ。だがどちらが料理人か見た目でわからない、手にフライパンを握り締めていて。

「どうした、今日はやけに喋るじゃないか。何かいいことでもあったのか?」

 バーガーパンツはいつも通り世間話を試みる。いつも通りではない相手に。普段は薄目で口数の少ない不気味な人間が、ニコッと目を見開いて饒舌なものだから、余計気味が悪く映る。本当は一言だって言葉を交わしたくない気分だ。
 人間はコクリと頷いてから、嬉々として語った。

「サンズの奴をノーヒットで倒せたんだ! いやぁ、二桁回数かかるかと思ったけど、五回しかやり直さずに済んでね。案外慣れたらすぐなんだなって、自分でも意外だよ。EXPの数値以上に強くなってるんだと実感したぁ……嬉しいね、君も祝え」
「へぇ、そいつは良かったな」

 まるで言っていることの意味がわからないが良くはない、バーガーパンツは心の中で毒づいた。モンスターを殺して楽しむ変態野郎など、理解したくもない。

「だからさ、メタトン顔のステーキ買ったはいいものの、食べなかったよ。ヒーローの剣型サンドイッチもね。君の店のアイテムはもう無意味なんだよね」

 じゃあさっさと帰れ、とハッキリ言えない従業員。

「じゃあなんだ、チビッ子はオレを責める為だけに店に来たってわけか。メタトンみたいに」
「そうじゃないな。そんなのは無意味な行為だ。そもそもCoreを抜けてNew Homeまで行って来たのに、わざわざここに戻ってくる必要ないし。言っておくが、君を殺しに来たわけじゃない。そんなの無意味だ。どうせもうじきこの世界を壊してしまうのだから。ガラクタみたいに」

 カウンターに腕を引っかけ、逆に見下してみせる人間。その勝ち誇った笑顔と面するのは臆病に引きつった苦笑い――ではなかった。目の前に差し出されるは、包丁。

「なに!」

 人間はすかさずフライパンで飛んでくる刃物を防いだ。そして隙間から覗くが、対するバーガーパンツは決して動揺を見せない。彼の表情は決意に満ち満ちていた。冷静にその隙間から点火棒を突きつけ、スイッチを押した。

「コンロの調子が悪い時、非常時に使う奴だ。今は非常時だろ? チビッ子」

 まるでルーチンワークのように手慣れた様子で、人間の肉を焼く。最初に刃物を投げたのは、一旦防御させた上で無防備なところを狙う為だった。そもそも刺し合いをやる度胸は彼にはない。だから着火しながらも腰が引けて一歩下がる。
 対する殺戮者も焼かれっぱなしではない。すぐさまフライパンで防ぎつつ飛び跳ね、新たにナイフを引き抜いてカウンターに乗り上がった。その時すでに、着火棒は切断されている。バーガーパンツが怯んで離さなければ、手首ごと離れていただろう。
 ゴォォン。焦げたフライパンが落ちて、鈍い音を響かせた。空いた手で火傷した頬を擦りながら、人間は述べる。

「今のは……流石に驚いたかな。NPCに攻撃されるなんて。初めてサンズの後半戦に入った時と同じ気分だよ。まさかシステムの裏を突くなんてってヤツさ」

 痛みに苦悶を浮かべるでなく、むしろ恍惚として妖艶。今更になって恐怖がバーガーパンツに押し寄せる。そりゃそうだ、こんなイカレた奴に勝てるわけがない――なにせ只者ではない雰囲気を纏っていたサンズでさえ、倒してしまった人間なのだから。

「まぁこの程度、5ダメージってとこだけど」

 そう嘲笑いながら、店の商品を引ったくって頬張る。すると火傷痕がみるみる癒えていった。お前のやったことは無意味だ、と店員に見せつけてやる。
 ――ほら見ろ骸骨、やっぱり無理だろ。失敗するのなんてわかりきっていた。でも何をやっても駄目な俺にしては頑張った方じゃないか。やるだけやったんだ。

「そうかい、次はチビッ子のターンか。煮るなり焼くなり好きにしな」

 バーガーパンツは惨めな気分になるのを誤魔化そうとして、顔を背ける。人間に頭を掴まれ、残りの生を諦めた。その手は卑屈な彼に正面を向かせ、釘付けにする。

「じゃあ好きにさせてもらうよ。システム的に不可能だと思っていたが、君がやれるなら私にも出来るな。ここで君を殺すことが」
「やるならやりな」
「だが殺せないな」
「なんで?」
「君が好きだからだよ」

 まったくもって予想外の反応に呆気にとられるバーガーパンツ。咄嗟に「からかっているのか?」と皮肉を返すことも出来ない。人間の真剣な眼差しに射られて、身動きが取れない。その綺麗な瞳に吸い込まれてしまう。
 辛うじて、「なんで?」と直前の言葉を繰り返す。するとませた子供は熱い火でなく甘い息を吹きかけて、囁く。

「でなければ、クリア直前に引き返してこないじゃないか。回復アイテムはもういらなかったのに。なら君と会話する為だけだろ? 名残惜しくなってね、どうしようもない君の間抜けっぷりが。なのに、サンズでさえ傷つけられなかった私を傷つけた、それも好意に値するよ。ますます好きになる」
「……ははは」

 こんな変態に遭うぐらいなら独りの方がマシだ、とバーガーパンツは心底思った。人間が手を離すと、みっともなく尻もちをつく。

「良かったよ。君がまだここにいてくれて。でもどうして避難しないんだい?」
「ど、どうしてだって? 言ったろ、チビッ子。これが当たり前なんだ。当たり前じゃないことをやるってのには、勇気がいるだろ」
「ふーん……」

 人間は少し考え込んでから、勝手に自説を披露した。

「でも私を攻撃してみせた、当たり前でなく、ね。それこそが君がまだここにいる理由なんじゃないかな。夢を諦めきれていないのさ。君は今でもメタトンを慕っているのだろう? 彼と仕事がしたいのだろう? それを奪った私は許せないのだろう?」
「……そんなんじゃ」
「なかったら、君がとっくにメタトンを見限っていられたら、こんな酷い仕事辞めて遊んでるはずじゃないか。そうしないで夢を持ち続けているところが、好きだよ」

 捻くれた青年は思い出す――まだ純朴だった少年の頃、テレビに映るキラキラとしたスターの姿を。彼の基準で最高にイカしていたメタトンの姿を。その傍に立ちたいと願った――役者はあくまで手段の一つ。しがないバーガーショップの店員だって、手段の一つ。
 カウンターから飛び降りて、人間は背を向ける。去り際にエールを残して、すぐ隣のエレベーターの奥に消えていった。

「なら夢を叶えてみなよ。こことは違う世界線でね」



 もう客は来なかったが、最後の時までたった独り、バーガーショップの店員が店を閉めることもなかった。





というわけで生存報告も兼ねて今年最もハマったゲームUndertaleの二次SSを書いてみました。Burgerpants視点でGルート終盤を綴ってみましたが、彼ほど共感を覚えるキャラクターはいません。顔芸もさることながらあの卑屈さにしょうもない過去にMettatonへの屈折した感情にと。そんなバガパンくんへの歪んだLOVE(愛)を作中でも示しています。
来年はこういった短編をまとめて一冊の本を出そうかなと企んだりしているので、その時はまたよろしくお願いします。
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Author:宇佐城
同人サークル「月宇佐城」代表
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