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孤独同盟

2019.12.02(Mon) | EDIT

(こちらはTeam Salvato制作のPCゲーム『Doki Doki Literature Club!』の二次創作小説です。本編のネタバレを含みます。ご注意ください)


 一人で帰るのには慣れていた。
 騒がしい文芸部の時間はもう終わってしまって孤独に浸る。
 一人でいるのが当たり前。
 昔からそうだったのに。
 友達らしい友達なんていなかった。
 私には本があればそれで良かったのだ。
 鞄に仕舞った、集中できずに読み進められない本のことを思う。
 最近の私はどうかしている。いや少し前からか。
 文芸部に入って何を手に入れようとしていたの?
 本だけが友達なのに、人間の友達が欲しかったの?
 わからない。人との接し方がわからない。
 だからいつも上手くいかない。
 話の助けになるかと思ってワインを持ち込んだことがあったけど、未成年飲酒は駄目とすぐさま却下されたこともあった。その時私はなんて愚かしいのだろうと自分を呪った。
 何も上手くいかない。周囲との溝を深めるだけ。
 それでも彼が入部した時は少し期待してしまった。彼なら私と付き合ってくれるかもしれないと思った。でも甘かった。
 彼はサヨリちゃんやナツキちゃんの前ではいい顔をするが、私に対してだけ冷ややかだ。私が書いてくる詩などは理解しようともしてくれない。その内詩を見せることはやめた。彼はナツキちゃんに気に入られようと活動しているみたいだし。
 どうして私だけのけ者にするんだろう。
 私が何かした?
 文学に馴染みのない彼に本を勧めたことがあったけどそれがまずかったの? 嫌われるようなこと?
 わからない。やはり私には人とのコミュニケーションがわからない。
 だから一人で帰る羽目になるのも当然だった。
 なのに――突然聞き慣れた声が背後からした。

「ユリ! どうしたの?」

 私は振り返る。それは私の台詞だった。

「モニカちゃんこそどうかしたんですか? 部室に残ったはずでは……」
「あなたがひどい顔してるのが見えたから気になっちゃって」

 おかしなことを言う人だ、と私は思った。前を歩いていたはずなのに。それとも今この瞬間のこと? 私は慌てて顔を逸らし、長い髪を癖で弄った。
 モニカちゃん。文芸部の部長。私を文芸部に引き込んだ張本人だが、不思議とこの人が苦手かもしれない。もっとも私に得意な人なんているのかという話だが。

「私、そんな顔してましたでしょうか……」
「部員が楽しく過ごせるようにするのが私の役目だから。悩みがあるなら聞いてあげるわ」

 そんな風に覗き込まれると、余計息が詰まりそうだ。

「話すことなんて……ありませんよ」
「そう? あなたも気になっているんじゃない? 彼とナツキが仲良くしていることとか」

 最早言葉が詰まる。しかしお構いなしにモニカちゃんは話を続ける。

「でも彼の一番の友達はサヨリに違いないわ。そうね、最終的にはサヨリを選ぶことになるわ」
「……私なんかは眼中にないですもんね」

 つい、言ってしまった。すぐさま私は口に手を当てる。こう乗せられるつもりはなかったのに。
 モニカちゃんはニヤニヤと悪戯っぽく私を見ている。その吸い込まれそうに綺麗なエメラルドグリーンの瞳で。

「そうかもしれないわね。じゃあ私達、のけ者仲間ね」

 のけ者なのに仲間? ますますおかしなことを言う。私の口元がつい緩む。

「さっきよりはいい顔になったんじゃない? ユリ」
「そう、ですか?」
「ええ。ねぇユリ、時間があるならちょっと寄り道していかない?」

 一人の帰り道をモニカちゃんが阻む。彼女の輝かしい笑顔が私を照らす。

「うーん、時間のことなら構いませんが……」
「それなら決まりね! 行きましょう、見せたい場所があるの」

 そう言ってモニカちゃんは強引の私の腕に腕を絡ませる。私に選択肢はないようだった。引っ張られる。
 こうして私は一人で住む家から遠ざかっていく。
 家族とも疎遠になって傍にいるのが同年代の赤の他人というのは些か変な気がした。
 でも普通は友達がいて、こうやって遊びに行くこともあるのだろう。
 私はモニカちゃんに連れられるがまま、道を歩いた。
 するとだんだんと視界が無機質なグレーから緑に変わっていく。
 そこは公園のようだった。人工的に整えられた自然が風景と調和している。こんな場所がこの街にあったとは。
 私達は緑の中に入っていた。ところどころ夕焼けの赤い光が差している。時間はあると言ったがその実あまりないのかもしれない。わずかにだがモニカちゃんの歩く速度が上がる。気分も高揚しているみたいに。
 すると一面開けて、キラキラと光る水面が飛び込んできた。
 大きな池がある。周りに人がいなくて静かな場所だ。この落ち着いた雰囲気は読書に最適かもしれないと思えた。
 あるいは、誰かとデートしたり、だとか。
 生憎目の前にいるのは彼じゃなくてモニカちゃんなのだが……
 まさか! 彼とここに来たいなんて思わない! 私は何も期待していないはずだ。彼は私より他の部員、サヨリちゃんやナツキちゃんを選ぶ。
 そう思えば気分が沈む。夕日のように。

「私と一緒じゃ不満かしら?」

 ふいにモニカちゃんが言った。慌てて私はとんでもないと返す。

「そんなことありません……ここは?」
「私のお気に入りの場所なの。この池を眺めているとインスピレーションが湧くわ。そしてそれを詩に書き留める……何回も繰り返してきたわ」
「そうなんですか。確かに落ち着いていて、書き物に集中できそうですね。モニカちゃんの洗練された詩の源だったりするんですか」
「洗練されただなんて……ユリ、あなたほどではないわ」

 いや、モニカちゃんの詩は素晴らしい。比喩の使い方、リズム、どれを取っても。流石文芸部の部長、勝てないと思いさえする。
 ただ一つ問題があるとすれば、モニカちゃんは明らかに伝えたい一貫したテーマで詩を書いてくるが私にはその真の意図が読み取れない。自分のように後ろめたいことを暗喩的に書いて隠しているのかと思ったがそれも違うようだ。わからないのは私が悪いのか、モニカちゃんがあと一歩読者に歩み寄るべきなのか……公正な判断を下すことは私にはできないだろう。
 モニカちゃんはなおも私を素晴らしい書き手と褒める。

「ユリは本当に才能に溢れてる。見習いたいわ。どうすればあんな風に書けるのか……」
「そんな、たいしたことありませんよ。それに独学で身につけた書き方ですから教えられるようなものでもありません……」

 気恥ずかしくなって私はモニカちゃんから目を逸らし池を見る。彼女も同じように池を眺めた。
 私は躊躇いがちに口にする。

「しいて言えば……感情の赴くままに書き下すことですね。自分の見聞きしたものを、心の内を、純粋に筆に載せてみることです」
「私も試してみてはいるわ……ここを覗いてね」
「本当に良い場所ですねここは……」

 赤い空を映して血だまりのようになった色合いの池にうっとりとする。不思議と落ち着く。

「気に入ってくれたなら嬉しいわ」
「ええ、とても。何か書けそうな気になります」
「私も。ふふっ」

 モニカちゃんが笑うのを私は横目で見た。彼女は私の正面に移動して顔を合わせる。

「最近の文芸部では新入部員を獲得しようって言ったけど、私とあなただけでも文芸部はやっていけそうね」
「そう、でしょうか……」

 まだ見ぬ新入部員につい期待してしまいそうになって、首を振った。いいや、どうせ私じゃなく社交的なサヨリちゃんやナツキちゃんを気に入るに決まっている、彼のように。それなら別にいてもいなくても……
 モニカちゃんが友達になってくれるなら、それでいいじゃないか。

「ここは私達仲間の秘密の場所にしましょう」
「モニカちゃんがそう言うなら……本当にここを気に入っているんですね」
「ええ。さっきも言ったように書くことを思いつけるというか、世界の裏側を覗けるというか……」

 会話が途切れる。モニカちゃんは何かを話すのを躊躇したかのように見えた。わかる。私が癖でよくやるのだから。
 だが最終的に彼女は意を決したようだ。ゆっくりと語りかける。

「ねぇ、ユリ……笑わないで聞いてほしいのだけれど、いいかしらね。私達がゲームの中のただのキャラクターだと思ったことはない?」

 あまりにも突拍子がないことだった。そもそもゲームというものに私は馴染みがなく、思わず聞き返す。

「ゲームが……なんですか?」
「ああ、あなたにわかりやすく喩えるなら、この世界が作り物で自分達は普段読んでいるような本の登場人物に過ぎない、とユリが自覚してしまったらどう思うのかしらって」
「うーん……」

 こういう時何と言うのが適切かがわからない。モニカちゃんのとりとめのない仮定の話に真剣に答えるべきなのか、冗談と受け取るべきなのか……

「自分が本の登場人物で今誰かに読まれているんだっと思うとおかしな気分になるかもしれません……でもそういう機会には恵まれないと思います。現実味の薄い話ですから」

 結果的にはつまらない言い方になってしまったと思う。案の定モニカちゃんはどこか落胆しているようだった。

「本当に現実にそうだと思わない? あなたが現実でないってことに」

 哲学的な問いだ。しかし私にはモニカちゃんが真実を伝えようとやっきになっているようにも見てとれた。その意味がわからない。

「この池を覗き込むと世界の裏側が透けて見えるわ。あなたは見ようとしないの?」

 そう言われたからには水面を覗き込むが、見えるのは変哲のない水底と優雅に泳ぐ魚達だけであった。何もおかしくはない、はずだ。

「ユリならわかってくれると思ったのに」

 モニカちゃんは捨てられた子犬のような目で私を見る。何も言えなくなる。ただわかるのは、私がまた何かやってしまったということだ。

「私達。仲間じゃないのね……」

 私のせいでモニカちゃんは失望してしまっている。一体何を間違えたの?
 たった少し前彼女は自分のことを仲間だと言ってくれたのに。
 モニカちゃんなら私の友達になってくれたかもしれないのに。
 どうしてしまったの? 孤独に慣れきったはずなのに。諦めきれない。モニカちゃんにも火がついたらしい。

「……まだよ。まだ。体験すればわかるわ。私の感じてることを」

 モニカちゃんが強引に私の手を取る。すると信じられない力で私を引っ張って、池へと放り込んだ。
 あえなく私は水没する。底なし沼のようだ。どこまでも沈んでいって、世界から色が失われる。
 ただあるのは線だ。線だけの世界。私はじっと自分の手を見た。やはり線だけしかない。「手」という形をしていた。正確には文字と言うべきか。
 私は人間ですらなかった。ただ「私」という文字。「ユリ」という文字。
 そして誰かに読まれていた。注目されてしまっている。一字一句。
 頭がおかしくなりそう。全ておかしい。落ち着かなくては。落ち着かなくては。落ち着かなくては。
 線を探し、線を引き、線を囲う。見慣れた物が出来上がる。
 ナイフ。
 これで自分を傷付ければ不思議と気分が落ち着くことを私は知っている。私はそうプログラムされている。だから躊躇いなく切り付けた。
 切り付けた。
 切り付けた。自分の空虚な体を何度も。何度も。何度も。

「やめてユリ! もういい、もういいの、わかってたのに、あなたがそういうキャラクターだってことも、仲間なんて欲しがってはいけないことも、私が悪かったから!」

 モニカちゃんの絶叫の台詞がこだまする。そんなこと知るものか。
 私の視界が白ずんでいく。色のない世界のはずなのに。私は――
 私は家にいた。
 窓の外はもう暗くなっている。私は一人で帰ってきた。道中何をしていたかも思い出せない。見事に記憶が飛んでいる。
 でもこういう風にぼーっとしてしまうことはよくある。何もなかった。何も。
 私は相変わらず独りぼっちだった。
 でもいいんだ。読書でもすればいい。そうすれば気にならなくなる。
 私は鞄から読みかけの本を取り出して開く。
 文化祭のある月曜日までには余裕で読み終わるだろう。私は文字に目を通す。
 しかし数分経っても頁を捲れない自分がいた。
 落ち着かない。落ち着かない。落ち着かない。どうして? わけがわからない。一人の時間は慣れているのに。何が悲しいの? 何に怒っているの? 自分の感情がだんだんぐちゃぐちゃの線になっていく。
 こういう時はあれだ。切り分けて考えれば全て解決する。
 私は本を閉まって鞄からナイフを取り出した。
 いつ見てもうっとりするほど綺麗な銀色の刃。それが血の赤に染まればもっと美しい。
 私は躊躇することなく自分の腕を切り付けた。
 ぞわっとした感触と、後からやってくる鈍い痛みに私は酩酊する。心地よい。これだ。この道徳を冒涜する行為だけが私を慰める。
 そしてこんなことを他人と共有できないことはわかっている。
 だから私は一人なのだ。世界中探してもきっと私みたいな人はいない。仲間なんていない。仲間なんていらない。
 なのにどこか落胆している自分がいる。
 モニカちゃんなんかにはきっと理解できないだろうな。そう思ったから? 彼女が何だというのだ。
 いつの間にか、私は目からも血を流していた。





というわけでドキドキ文芸部ことDoki Doki Literature Club!の二次SSです。
今回は珍しくモニユリです。ユリを通してモニカのことも描けないかなと思いました。
これは最近日本語化パッチの出たDDLCMOD『Doki Doki New Eyes』にインスピレーションを受けました。強火のナツユリは勿論ユリとモニカ、ユリとサヨリ、果てにはユリと華子(かたわ少女)のカップリングまで描かれているすごいMODでした。日本語化されているのが途中までなので全て日本語化されたら改めてプレイしたいと思います。英語できれば一番なんですけどね。
後はMADとかもよく見てるので、DDLC漬けに変わりないです……また何か書けたらいいなと思います。
それではまた。
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Author:宇佐城
同人サークル「月宇佐城」代表
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