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ドキドキスワップトリック

2019.11.25(Mon) | EDIT

(こちらはTeam Salvato制作のPCゲーム『Doki Doki Literature Club!』の二次創作小説です。本編のネタバレを含みます。ご注意ください)


 見上げれば、見知らぬ天井だった。
 壁もベッドも、一面真っ白。空白に取り残されたかのよう。
 また白い、ナースが顔を覗かせる。

「目が覚めました?」

 ここは病院らしいことがわかる。でもなんで病院にいるんだろ? 全く身に覚えがない。
 だからそのまま訊いてみた。

「俺、どうしてここにいるんです?」
「もうじき退院できるわ」

 ナースは質問に答えなかった。
 その後白衣の医者が来て様子はどうかと訊かれたりした。適当に相槌を打って流しているとそのまま本当に退院ということで白い箱から解放された。
 俺は戸惑う。医者も結局どうして入院したのかということについては答えなかった。
 ナースに導かれて外に出るなり、病院の巨大さを初めて知った。まるで大病でもしたのかと思う。
 その結果、意識が混濁しているのかもしれない。
 何もわからないまま俺は病院を追い出されて、そこで待ち受けていた人影を認める。
 彼女はこちらを見ると軽く手を振った。
 ポニーテールの可愛らしい女の子だ。ああ、彼女のことは覚えている。

「モニカ」
「やっほ~」
「待っててくれたのか」
「ええ、とても」

 俺はモニカに駆け寄った。彼女は白いワンピースを着ていた。まるで病院の一部かのように思えたが、気にしすぎだろう。

「もう大丈夫なの?」
「ああ、そうみたいだ」
「本当に?」

 モニカは訝しげに俺を見る。普段と何か違うところでもあるというのか。
 俺は例の質問を彼女にもしてみようと思った。

「なぁモニカ、俺がなんで入院してたのか知らないか?」
「本当に、何も覚えていないのね……」

 モニカは肩を落とした。落胆しているのは明らかだ。無視する医者達とは違う。
 だけどそれ以上訊けなかった。俺が何か言う前にモニカが先に断る。

「まぁ、記憶喪失ならそれも結構だと思うわ。その方がいいこともあるし。それより明日、ちゃんと文芸部に来てくれるかしら」
「ああ、勿論行くよ」
「それなら良かった。でも無理しないで。今日はゆっくり休むといいわ。それじゃあ明日ね~」

 そう言ってモニカは手を振るとその場を後にした。あっという間だった。名残惜しいが俺は彼女を追いかける気にはならず、言われた通りまっすぐ家に帰って休むことにした。
 子供の頃から見慣れた家、見慣れた部屋。あの落ち着かない病院と比べてなんと安心できることか。
 久々に俺はぐっすりと眠った。



 しかしいくらなんでも寝すぎた。
 朝一度目を覚ましたのだがなんとなく起き上がることができず、そのまま二度寝してしまった。するといつの間にか授業も終わりに差し掛かる頃である。寝坊も寝坊、大寝坊だ。
 もうこのまま休日にしてもいいかと思ったが、昨日のモニカとの約束を思い出して慌てて制服に着替え、家を出た。
 一人で登校するのも久々な気がする。この時間だから仕方ないのだが。
 学校に着くと俺はまっすぐ文芸部の部室へと向かった。普段は使うことのない三年生の教室の方にあるのを思い出す。モニカは記憶喪失だと言ったが全然忘れていない。俺は正常だ。
 部室の扉を開く。すると三人の女子が出迎えてくれる。

「ようやく来たわね! 今日も来ないかと思ったわ」
「お久しぶりです……」

 手前の小柄な方がナツキで、奥の控え目な声の持ち主がユリ。ああよく覚えている。俺の友達だ、忘れるはずがない。

「みんなあなたを待っていたのよ。おかえり、文芸部へ」

 そして勿論モニカもいた。教壇に立っている。

「どうやら俺は浦島太郎みたいだな……随分と長く入院してたらしいな」

 これについては覚えてないのだが、ナツキとユリも頷く。モニカに促され俺は席に着いた。

「さて四人に戻ったことだし、何か新しい活動を始めたいと思わない? 何か提案があるかしら……ユリ!」

 モニカは長身のユリを指さす。普段は部長のモニカが何か提案することが多いのに、他の部員に投げるだなんて珍しい。それも一番奥ゆかしいユリに。
 しかしユリはちょうど考えを持っていたようだ。立ち上がって答える。

「みんなでいつもと違うことに挑戦してみる、というのはどうでしょう……例えば持ち合った本を交換して読む、とか。自分が普段読まないジャンルを読むことになると思いますし、思わぬ刺激を受けたり、気分転換にいいかと」
「いいアイディアが出てきたじゃない。それにしましょう」
「ええ、じゃあユリが読んでるようなホラーをわたしが読むってこと?」
「嫌、でしたか……?」
「別に、あんただってわたしのマンガを読んでくれるのよね?」
「マンガ、ですか……」

 なんだか微妙な空気になってしまった。やはりお互い普段読まない物を読むというのは抵抗があるかもしれない。だがモニカの言うようにいいアイディアだと思うから、俺は賛成の意を示す。

「いいじゃないか。ユリ、お前がいつもと違うことに挑戦してみようと言ったんだろ。ナツキも、とりあえず読んでみていいんじゃないか。面白いかもしれないし、世界が広がると思う」
「そう、そうよね」
「私も……この機会にマンガを読んでみます。あなたが文学だというのだからきっと立派な文学なのだと思います」
「そう思ってそうしてくれるなら……わたしも嬉しい」

 話はうまくまとまったようだ。俺も決意表明をする。

「そういや俺もユリから借りた本をまだ読めていなかったな。ナツキのマンガも。読み進めておくよ」
「えっ?」
「私はあなたには貸していませんが……」

 一体どういうことだ? 何やら雲行きが怪しくなってくる。気まずくて俺は話題を変えようとした。

「そういや文化祭ってどうなったんだ?」
「文化祭は……」
「あんた、何も覚えてないの? あんたのせいでそれどころじゃなかったんだから」

 余計場の空気が悪くなってしまった。ユリは当惑して俺から目を逸らし、ナツキは怒った風に見つめてくる。幸いモニカが割って入った。

「まぁまぁ、記憶違いなんてこともあるわよ。そう、よね? 覚えてないのも仕方ないわよね。ねぇ、ナツキ」
「わ、わかってるわよ」
「それならいいわ。じゃあ本を交換して読んでみましょう」

 モニカの号令を受けてナツキとユリはいそいそと本を持ち寄った。確かユリは『マルコフの肖像』でナツキは『パフェガールズ』だ。見覚えがある。二人はそれっきり俺には話しかけなかった。
 手持無沙汰になっているとモニカが近寄ってきた。

「ねぇ、文芸部が終わったら私達、お見舞いに行かない?」
「お見舞い?」

 予期せぬことだった。モニカはいつものように微笑みを絶やさない。それがどこか恐ろしく感じられる。何故だろうか?

「文芸部員の」

 とまでモニカが言って、言いようのない不安が俺の胸に渦巻く。

「どういうことだ、文芸部員は俺達で」
「元々文芸部は五人だったのよ。そんなことも忘れてしまったのね……」

 モニカの言っている意味がわかるが上手く呑み込めない。俺とナツキとユリとモニカの他に部員が? なのに何故俺はそいつのことだけ都合よく忘れてしまっているんだ?

「うっ、頭が……」

 痛い。頭が痛い。何だこれは。
 大丈夫? とモニカが俺の両肩に手を置く。すると少し痛みが引いた気がした。気のせいかもしれないが。

「あぁ……」
「それより文化祭あなたも楽しみだったのよね? パンフレットがあるからそれだけでも読む?」

 そう言ってモニカは鞄を取ってきて中から冊子を取り出した。モニカがまとめて印刷して、確か俺も手伝った奴だ。
 一度目を通しているが改めてよく出来ていると思った。みんなの詩も載っていてそれぞれ個性豊かで素晴らしい。自分の書いた詩も載っていたがあまりにもひどい出来なのを思い出してパッと読み飛ばしてしまった。
 そうこうしていると時間も過ぎ、ナツキとユリは談笑しながら教室を出ていく。その後を追おうとしたがモニカに捕まって俺は「部員のお見舞い」に行くことになった。忘れるところだった。

「それじゃあ私達も行きましょう」

 モニカは俺の腕を掴んで離さなかった。



 そうして再び俺はあの白い病院に戻ってきた。モニカに連れられるがままに。
 ここにいるとなんだが落ち着かない。そわそわする。病院にいるというのは確かなのにどこにもいないような感覚。どことなく恐ろしい。
 俺はさっさと帰りたい気分だったが、もう一人の部員の顔を拝まないことには帰れないと自覚していた。
 俺とモニカはナースの案内で白い廊下を渡る。その先は閉鎖された病棟であった。何をも寄せ付けない感じに俺は気後れする。だがモニカが俺を引っ張っていく。
 いつの間にかナースは消えていた。そして俺はモニカに続いて眠り姫の病室に入り、その姿を目にし、混乱した。
 一体どういう冗談なんだ?
 死んだように眠っているもう一人の部員は、俺の顔をしていた。

「どうして俺がいるんだ……?」
「何を言っているのかしら」

 モニカが冷ややかな目で俺を見る。いつもみたいに笑っていない。いや、笑えないのは俺の方だ。変に汗が出てくる。

「何って俺がもう一人いるんだよ!」
「あら? そんなはずがないわ。あなた、自分の名前が言える?」
「えっ? 俺の名前がどうしたんだ。俺の名前は……」

 と言いかけて、何も口から出てこなかった。俺は自分のことも忘れているらしかった。

「よぉく見て」

 呆れた風にモニカは手鏡を見せる。すると映っていた。赤いリボンを頭につけた、女の子の顔が。これが俺だとでもいうのか? まるで信じられない、違和感しかない。
 あなたの名前はサヨリ、とモニカが言った。

「やっぱりね……」

 モニカは肩を竦める。そのエメラルドグリーンの瞳で突き刺すように鏡の中の女の子を見つめた。

「その仕草、その話し方……サヨリ、あなた自分が彼だと思い込んでいるのね」
「どういうことだ? サヨリなんて知らない、俺は俺だ」
「そう? よく見てって言ったでしょ。あなたの首筋に締め痕があるのに気づかない?」

 言われて鏡に映る俺を見て、確かに首元が赤く腫れて線のようになっているのを認めた。しかしこれが一体……

「あなたは首吊り自殺を図ったのよ」
「俺がいつ、なんで?」
「文化祭の当日。でも奇跡的に助かった。いえ助けられたのよ、彼に。でも彼はあなたが死んだものと思ったんでしょうね……貴方が死んだという現実を受け止められなくて、茫然自失になった。そして今も目を覚まさない」

 背筋が凍る。俺は断片的に思い出しかけた。蘇る、あの時、ぶら下がりながら目に映った彼の姿が……
 そして今と同じようにここで眠るの彼の姿が思い出される。

「そしてそれを知ったあなたはショックでおかしくなったのよ。自分が自分であることを拒絶して、いなくなった彼の代わりになろうとした。サヨリ、確かにあなたは死んだわね」

 俺の混乱をモニカは説明づける。冷静に。冷徹に。だが俺は彼女の言う通り、受け入れられない。

「そんなはずはない……俺は俺で、サヨリなんか知らない……あんな子は消えて当然なんだから……」
「じゃああなたは彼として生きるの? サヨリに戻るつもりはないの?」

 モニカが尋ねる。鏡の中の少女は首を縦に振った。
 その瞬間、モニカの眉がつり上がった。

「冗談、じゃないわ!」

 彼女は激怒の感情を露にして、俺に詰め寄る。白い壁まで追い詰め、俺の前で壁を叩いた。

「私から彼を奪っておいてなんて態度なの! あなたが彼の代わりになんてならない! 現実を見なさいよ」

 モニカの手は壁を伝い俺の肩まで降りてきて、そして首根っこを掴む。絞める。

「あなたなんか生まれてこなければ良かったのに! そしたら彼はあなたなんかに振り回されて、挙句もう触れられなくなるなんてことは!」
「うぅ……苦しいよ……モニカちゃん……」

 涙が俺の頬を伝う。見ればモニカも泣いていた。とうとう抑えきれなくて、彼女は俺から手を離し自身の目を覆う。泣き崩れる。

「ああ、ああああ」
「モニカ……モニカちゃんの言う通りだ、俺なんか、わたしなんか生まれてこなければよかった。苦しいよ……どうしてこうなるの……」

 モニカは答えない。だが答えはわかっていた。全部、自分が悪い。自分の勝手のせいで彼をこうしてしまった。世界で一番大事な友達の彼を……
 すると面会時間が終了して、わたし達は強制的に彼から引き剥がされた。自分の意思とは反対に足が病室から遠ざかっていく。
 そして何も言わぬままモニカちゃんと別れて、家に帰った。不細工な牛のぬいぐるみが出迎えてくれる。
 それと、あった。
 あの時の縄が、変わらずに。
 わたしは今度こそ自分を縛り首にしようと、それを手に取る。
 ずっしりとして重い。
 それから思ったより厚い。体が熱い。涙が縄に落ちる。
 そうやって、死に逃げようとするのがいけないんだ。
 わたしは一生生きてこの罪を背負っていかなきゃいけない。それが罰なんだ。

「うぅぅううぅあああぁぁぁぁぁ」

 わたしは思いっきり泣き叫んだ。これが最後だ。後に残さぬよう、一晩泣き続けた。



「結局あの子、来なくなったわね」
「退部したようですよ。モニカちゃんが言っていました」
「何よそれ、ホントなの? うぅ……」
「これで三人になりましたね」
「モニカの奴もやる気なくして来ないし」
「それでは文芸部も解散、でしょうか……」
「冗談じゃないわ、わたしにはここしか居場所がないのよ! お願いだから続けさせてよ」
「私に言われても困ります……私は大丈夫ですし、どうせ一人には慣れていますから……」

 そんな会話が部室の方から聞こえてくる。心苦しい。
 みんなには幸せになってほしかったのに。
 でももう、わたしは文芸部にはいられない。
 気が付けば廊下を駆け出していた。階段を上る。上る。そして屋上まで来て、フェンスに寄り掛かった。
 このまま飛び降りてしまおうか。
 そんなこと許されるはずがないのに。
 わたしは自分の細い首を自分で絞めた。意識が飛ぶまで、力の限り。





というわけでドキドキ文芸部ことDoki Doki Literature Club!の二次SSです。
今回は叙述トリックに挑戦してみました。それによってホラー感を出せてたらいいなと思います。
一人称が俺になってたりちゃん呼びになってないけどナツキとユリに気付かれないのは元は英語の日本語訳文というのを想定していたり(ややこしい)
しかし自分で書いていて救いがなさ過ぎてキツイ内容でしたね……読んでてキツイ! ってなったらすみません。幸せな文芸部も書いて中和しなければいけない気がします。
それではまた書ければ投稿します。
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Author:宇佐城
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